1985年12月22日 東京グランギニョル公演、ライチ光クラブ当日
下北沢駅から少し離れた場所に東演パラータはあった。
東演パラータにはロビーやチケット売り場はない。
狭い道にはオシャレな女子や男子が溢れていて、陽気に笑ったりお喋りをしている。
劇場の前に細長いテーブルを設置し、2〜3人の女子のスタッフがノートに書かれた
予約客の名前をチェックしたり、お金を受け取りチケットを渡している。
他にも数人メーキャップを終えた学ラン姿の役者も一緒に外へ出て客の整理や誘導を
して一生懸命働いていた。
観劇する前にトイレに行こうと、眼帯をした怖そうな学ランのお兄さんに
「トイレはどこですかー?」と陽気に聞いた。
完全に役になりきっている彼は「どうぞこちらへ」と狭いギシギシした木の階段を軽々と
登りきり、トイレを指し示して、無言のまま紳士的な態度で深々とお辞儀をした。
私はこれからどんな事が始まるのか知らず、喜び勇んで最前列の席に座りこんだ。
知らぬが仏とはこの事だ。
(確か座席は椅子ではなく段差に薄い座布団が敷いてあったような気がする)
おかげで前半はビビリまくって心の中で悶絶していた。
一番前の席とは、30センチも手を伸ばせば舞台に届く位置で、舞台の高さが目の前にある。
造花、ライチジュース、色々な破片、ホコリ、役者さんの唾液 (特に嶋田久作さんの)、
ガラスの破片、血のりなど、色々な物が顔や体に飛んで来た。そのうち役者さんも落ちて来る
のではと常時覚悟をしていた。
観劇中、目の前にコロコロとライチが転がって来たので、つい手を伸ばして拾おうとした時、
木製の椅子がダンッと置かれて役者が座った。
危ないところで手を引っ込めたが、指が砕ける所だった。ラッキー危機一髪。
グランギニョルの舞台には独特の匂いが劇場中に充満している。
血のりと木の匂い、また何か別のものの匂いが混ざり合っているのかも知れないが
その匂いは,心地の良いグランギニョルだけの独特の匂いだ。
グランギニョルの公演のたびに入り口からその匂いが漂って来るので、
観劇する以前から陶酔してしまうのだ。
今も時々あの匂いを無性に嗅ぎたくなるが、グランギニョル解散後、再び出会った事はない。
恐怖が快感と陶酔に変わった。
自分が劇中にのめり込み演劇とはとは思えなくなった。
越美晴の少女のような可愛らしい高く透き通った声、役者の熱演、
舞台にダンダンと響く激しい足音、独特の匂い、音楽、照明、全てが自分の周りで現実になる。
その現実は最初に感じた恐怖ではなく、秘密結社の少年達をどこからか覗き見をしている様な
ワクワクドキドキした恋に似た心地の良い興奮だ。
これを観た少年少女達はもうここから抜けられない。
脳髄までグランギニョルの色に染まり、永遠にこのままでいたいと思う。
•もう東京グランギニョル以外、何を観ても面白くなくなった。
•他の演劇はただの演劇でしかなく、退屈な物になってしまった。
•これ以上の演劇はもう二度と無いだろうと断言する。
この後、東京グランギニョル・ライチ光クラブは3月に、都立家政スーパーロフトKINDOにて
再演をする事が決まり、再び3回観劇することが出来た。
毎回最前列で、血のりを浴びて恍惚していた。
その時のゼラが呼ばした血のりがハンカチに点々と付き、それは今も宝物として手元に残っている。
また嶋田久作さんや、越美晴さん、常川博行さんにもお会いできた。
飴屋法水さんには花束を渡し、握手をしてもらった。
飴屋さんの手は冷たく、か細かったのを覚えている。
Keiko・Olds
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やはり過去にライチ光クラブを観劇した事のある庄司トオル氏が、先日行われた東京グランギニョルの
常川博之氏が主宰する"ライチ闇クラブ"についてコメントされたので、彼に了解を得て記載する。
東京グランギニョル版「ライチ•光クラブ」の音源を聞く機会に恵まれた。僕はリアルで再演を観ているから丸30年ぶり。他の芝居はほとんど忘れてしまっているというのに、なぜかこの作品だけはハッキリと隅々まで覚えており、記憶違いも多々あったが、ほぼ正確に記憶していたことを再認識した。
忘れないうちにいくつかメモしておきたい。
まず冒頭のSPKの音楽に乗ってサーチライトのダンスの途中、下手側にあったベルトコンベアがガーッと動き出して、クラブを盗み見していた生徒(再演は浜里さん、再演は今泉さん)が逆さになって引きずり出され、そこでチェーンでつり上げられるシーン。
SPKからこのシーンに何の曲がどのように切り替わったのか覚えていなかったが、今日の本源では、ほぼカットアウト&インで細野晴臣氏のTREMNLINGに切り替わって、再びSPKの流れが確認できた。SPKは一回だけだと思ったが、他に2回ほどかかっていた。こんなにかかっていたのか。
ラストの方でかかっていたように記憶していたカリヨンの鐘は、ラストではなく、女教師の初登場シーンでかかった。
その後ですぐに丸尾末広氏扮するマルキ • ド • マルオが登場するが、再演ではこのシーンはばっさりカット。今回初めてこのシーンを聴く事ができた。確かに居てもいなくてもいいシーン。
それと、確かにあったのに音源で確認できなかったのは、飴屋=ジャイボの変な嗤い声。すっごく気持ち悪く、まるでスネ夫のように速いテンポで嗤っていたのに、その声がまったく入っていなかったのはなぜか。演技が初演と再演では若干違ったのか? それとも音源は少しカットされていた可能性も?
後半は、やたらと坂本龍一氏のエスペラントのB面後半の曲がかかっていたのは驚いた。Codaの中のJapanがかかったのはよく覚えているのだが、こんなにこのアルバムから選曲されていたとは思わなかった。
それにしても飴屋さん、ワルプルギスの冒頭といい、本当に鳥の声が好きなんだなあ。注**
完全に記憶違いをしていたのが、後半の飴屋=ジャイボが潜望鏡で星を眺めるシーンの相手方。記憶ではゼラだったが、ここは田宮が正解で、ライチ畑を焼き払うようにそそのかすくだりのシーンだったことが判明した。でもラストのライチ暴走はこんなに静かだったかな。OTTがかかってたと思うが。
庄司トオル (東京都港区) Twitter @ToruShoji 大阪芸術大学映像学科卒。在学中にパスピエ結成。大阪、京都で4本の演劇作品を発表。(2本は笹千丸名義)。東京の広告代理店にてコピーライター、プランナー、クリエイティブ・ディレクター、企画開発室室長を経て、2013年、サーヴィス アンド コネクションズ結成。2015年、Betsujin プロジェクトを準備中。
*私の記憶違いでなければ、下北沢東演パラータで行われた初演のライチ光クラブでは冒頭の音楽が 東京グランギニョルのために鳥羽テック(TOBA TECH)が作った『M541』であったと思う。そして天井に取り付けられた長いメタルの筒で出来た潜望鏡は、計4本のありそれが客席の方へ弧を描きながら下がって来るので圧倒される。
**飴屋法水氏は、過去に"動物堂"というペットショップを経営しており、動物も飛びウサギやアルマジロなど珍しい生き物ばかりを扱っていた。飴屋法水氏本人も動物が大好きで、自分の飼っていた梟を自由を与えようと山に引っ越し共存を試みるが梟は鷹に食べられてしまい自らの決断に疑問を感じてしまう。
Keiko Olds