2017/02/12

マーキュロ★東京グランギニョル


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東京グランギニョル は、日本の劇団。1983年、元状況劇場の鏨汽鏡と飴屋法水により結成。劇団名の由来はフランスのグラン・ギニョール劇場から。鏨汽鏡が作(時に飴屋と共作)、飴屋法水が演出・音響・美術を担当。(Wikipedia)

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〜失くし物は、違う視点から見てみると見つかる。
〜月が大きく見える所には、失くし物が集結している。
〜少年達の心に巣食う妄想は、放っておくと心を食い尽くす。
〜食い尽くされた少年には誰の声も届かない。
〜彼等は暴走し巨大な醜い怪物になる。
〜少年達のパラノイアを消し去るにはマーキュロが必要だ。

ここに1984年、アートシアター新宿で上演した東京グランギニョルの"マーキュロ"の内容をかいつまんで紹介する。
そしてもういちど、マーキュロのあの、赤や青の金属的な輝きが見たくなる。 
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     ☆☆マーキュロ☆☆  あらすじ

場所は"アートシアター新宿"

突然パシッという音とともに暗転する。
闇の中から床を踏む数人の靴音が聞こえる。
少しづつ明かりが入り、床を踏む6人の足、学生服、帽子を深く被った少年達が見えてくる。後ろには黒板に文字を書く教師(嶋田久作氏)の姿。床を踏む足音がピタリと止み、生徒(矢車剣之介)がひとり立ち上がって言う。



「先生! その証明文は適切ではない様に思われます(座る)」
教師、黒板の字を黒板消しで消し、再び書き始める。
また別の生徒(小川伸朗氏)が「先生!」教師「なんだね?」
「あの、今朝犯された猫の死骸を見かけました(座る)」
教師「そりゃ、昨夜、交通事故に遭ったんだろう」
別の生徒(武井龍秀氏)「先生!」皆一斉に振り向く。「あの、この頃毎晩股間がムズムズして眠れないんです(座る)」教師「それは気候のせいだろう」
別の生徒「先生、僕声変わりがまだなんです」「そのうち変わるよ」

「先生!あの、僕3日前にも犯された猫を見ました」教師咳払いする。「先生!あの…裏山が火事です!」「先生!あの、何とかして下さい!」「先生!あの、僕はどうしたらいいんでしょう」生徒の声バラバラに混じり合う。先生! あの、先生!気分が、先生!あの…気分が、先生、気分が 、先生、全員同時に「気分が悪いんです!!」
教師、ゆっくり振り向いて言う。「保健室に行きなさい」

黒板のチョーク入れのチョークがパシッと弾けて宙を舞う。
生徒、保健室目指して一斉に走り去る。
窓の向こうに大きな月が昇っていく。教師は教室にひとり残り黒板に文字を書いている。
突然、ドアを激しく叩く音、ドアが開きそこには少年、激しい風の音と窓にはパラソルの女性が一瞬だけ浮かぶ。少年は教室に入ってきてにこやかに話し出す。
「今晩は、転入生の三上です。この街の月は大きいですねえ。僕いっぺんで好きになりました」教師は答える。「君の街よりもこの街の月の方が大きいのかい?君どこから来たの?」
三上「月の小さく見える街からです。失くし物をしたのでこの街に探しに来ました。失くし物は僕の姉です。月の大きく見える街には探し物が集まるんです。」
教師「君の姉さん一体どうしたの?」
三上、帽子を取ってペコリとおじぎ。表情が変わって話し出す。

                                                               三上(“Y”)
「それは3年前、月の眩しい晩でした。いつもなら2時間ほど窓辺で本を読み、決まってお茶を入れてくれる姉がその日に限って3分も読むことが出来ず窓の外ばかり見ていました。その晩の月は満月で金ボタンのようにキラキラして、とても大きかった。この街に来るまではあんな大きな月を一度も見たことはありません。突然姉は「ちょっと散歩に行って来る。」と言い残してそれっきり戻りませんでした。」
教師は「では君はどうして、この街に姉さん月いると確信するのかね?月がと言うなら…気の毒だがこの街では姉さんは見つからないかも知れないよ。」
三上「なぜです!」教師「三上くん、月は何処から見ても、同じ大きさだよ。」

突然ガヤガヤしながら保健室から生徒が戻ってくる。それぞれマスクや眼帯、包帯などつけている。全員席に着いたので、三上も席に着く。

 
教師は保険の授業を始める。今日は梅毒についての授業。
生徒が「梅毒は先週やりました。」
教師「たったの1回で、君は全て覚えられたのかね? え?」そして生徒を前に出し、人体図に梅毒の侵す部分を印させる。そして難しい梅毒の授業が始まる。三上は退屈そうにしていたが、いきなり大声で笑い、カバンから望遠鏡を取り出し窓の外を眺める。
教師は授業を続け「……ですから性交だけではなく自慰の様な行為も非常に罪悪な行為なので、絶対にやめる様に。」
生徒「先生、ここに自慰・自涜は、現在では全く害がないと書いてあります。」


教師「文部省もね、間違うんだよ」と言い、旧約聖書の自慰自涜のエホバの怒りについて語り出す。」そして病原体や症状について長々と語り出す。すると生徒が「こんな症状の病気があるはずがありません…いえ、そういえば一度だけありました。小学校の時飼っていたカマキリで大事に育てていたんです。最初2匹いたのがある日1匹になって、それが病気になって……」 教師「それは1匹がもう1匹を食べたんだよ。」
 生徒「だってあの2匹はとっても仲が良かったんですよ!」 
教師「だけどね、産卵が近づいたんでメスは栄養をつけるためにオスを食べたんだよ。」 生徒「違います!そんなの関係ないですよ。きっと1匹だけになってしまったんで弱ってしまったんです。それで病気になって、お腹が膨れて、お尻から変な泡が出始めて、その中に寄生虫の様なツブツブが…」教師が、それが卵なんだよと言っても耳に入らない。生徒「僕は、あ、コレはいけない、悪い病気にかかったなと、ピンセットと針を使ってその寄生虫の卵をこんな風にプチっと、この寄生虫めプチっと、僕のかわいいカマキリにプチッ、病気が移ってはプチッ、大変とプチッ…」教師は保険係を呼び、生徒を連れて行かせる。チャイムが鳴り、授業が終わる。

〜暗転〜



明かりがつく。放課後、5人の生徒が思い思いにマンガ本や、雑誌をめくっている。生徒が2人、映画雑誌を一緒に見ている。二人はディートリッヒやブルック・シールズのどちらが良いかの話をしている。また教師の事を"金ブチ"と呼び、金ブチに女がいるかどうか、鼻のない男を見かけた事や、転入生の三上の噂をしている。その時別の生徒が、今日の課外授業に参加するかと聞くと、もちろん参加すると答える。
突然8時の鐘の音がし、生徒達は会話を中断。ピーピーと笛が吹かれ、激しいビートの音楽が流れ出す。生徒達はこぶしをふり、足を踏み鳴らし「チンカジョン!チンカジョン!」とコールをする。
ギギーッと、黒板が裏返る。黒板の裏側に、1人の乞食の少年(飴屋法水氏)が横に張り付いて弁当を食べている。黒板が止まると大きな口を開けてゲラゲラと笑うが、笑い声はテープの声。
生徒達「ハイル、チンカジョン!!」
乞食「ん、ハイル。あ〜、え〜、と胸やお尻をポリポリかく。チンカジョンは毎回この課外授業で、生徒達に乞食社会や浮浪者の地位や特権やらを講義していた。そして今日の授業は「オナニズムの意義と、その実践」だと言う。生徒が金縁の言った旧約聖書の言うオナニズムは罪悪の事を言うと、「金ブチは嘘ばかり教えるので気をつける様に。それではチャックを開けて!手を突っ込んで!突撃ーっ!!」とチンカジョン。
号令とともに音楽が入り、生徒達、一斉にオナニーを始める。乞食少年、楽しそうに生徒達の間を飛び回る。音楽の終りと共に、生徒達一勢に発射して果てる。中に飛び交う精液。乞食少年はそれを浴びる。

乞食「僕の大好きな公衆便所の扉には、真っ赤な文字で使用禁止と書いてあります。それは4年前の冬、僕が勝手に書いたわけで、それ以来僕はそこで寝起きして外を見たりしています。窓からはごみ捨て場の僅かな地面から生えた2本の雑草や玉葱の切れ端や、ビール瓶の破片がキラキラしてます。そんな光景をウットリと眺めながら放尿し…便器は抱きしめるとヒンヤリ滑らかで…僕はどこへ行ってもあの公衆便所の、赤い文字と雑草と生ゴミと瓶の破片とが、僕の瞼の裏に張り付いて消えることなく……それで僕は気付いたんですが、ぼ、ぼ、ぼぼ、ぼぼくは、あの、べ、べ、べ、あの、ぼ、ぼくは、べ……便所です。」そして突然大口を開けて笑う。

                                                   乞食少年チンカジョン(飴屋法水)

そこへ三上が入って来たので乞食少年は机の裏に隠れる。三上は教師の机の引き出しの中を探るが諦めて舞台全面に歩き出す。風の音、音楽、舞台両側から冬の街を行き交う人の群れが横切る。三上、その中に姉を見つけて呼ぶ。「姉さん!待って!由紀夫ですよ‼︎姉さん!」

その人物ピタッと止まる。三上と姉に2本のサス。人の群れはいつの間にか去る。姉は振り向かない。三上「姉さん…僕、2年間探したんですよ。忘れたんですか?由紀夫ですよ。死にましたよ猫。夕子さんはお嫁に行ったそうです。あれからどこにいたんです‼︎またどこかへ行くつもりなんですね、帰りましょう、家へ、姉さん!なぜ黙ってるんだよー‼︎」姉は、ジャンギャバンの「ヘッドライト」のテーマを歯の隙間からの口笛で鳴らす。そして三上の取れて無い学生服の第二ボタンの位置を見る。」三上はオロオロとしあたりの地面を這いつくばって探す。「おかしいな…さっきまではあったのに、きっとこの辺に…」そして三上が顔を上げると姉はもういない。また人の群れ。三上は悲痛な声を上げるが、もみくちゃにされ、人々の大声にかき消される。三上は倒れたが起き上がり服の汚れを払い続ける。

〜暗転〜
明るくなると教師が嬉しそうにトルコ語の授業をしている。三上がまた窓の外を、望遠鏡で眺めている。

教師「おい、こら!君は何を見ているのかね!」
三上「街の景色です。森も、街も人も逆さまに見えるんですよ。」
教師「ほう、どういうレンズを使っているのかね。」
三上「ただの窓ガラスです。前に窓ガラスを割った時、破片があまりにキレイなので取り付けました。」
教師「しかし、ただのガラスで風景は逆さに見えるはず無いだろう?」 
三上「はい、嘘です。でもこのガラスは極上ですから。」
教師「じゃあその極上のガラスで、本当は何を見ているんだ?」
三上「遠くです。とても、近い遠く。正確には、地球上の1番遠く。僕にとっては地の果ての果て。それは…僕の背中です。遠くのものが近くに見えて、近くのものが遠くに見える。僕はこの手で失くし物を探すんです。素通しの眼鏡をかけたり、足の間から逆さまに見たりすると、さっきまで出て来なかった探し物が、すぐに見つかる。つまりこの要領で姉を探しているんですよ。 先生…先生!!(ニヤニヤして) ……退屈です。」その一言で他の生徒は、ふで箱をガチャガチャ振り、退屈だあ! 退屈だあ!退屈だあ!退屈だあ!退屈だあ!
教師「黙れ!黙れ!」

場面が変わり、2幕  保健室

真っ暗な中、生徒(武井龍秀)の苦しげな声が聞こえてくる。
「ハア……ハア……うっ……やめてくれよ……ぼ、僕は…あんたの…弟じゃないか……ハアハア…あんな事…僕は二度としないよ……うっ…僕は…女じゃないんだ……ハア……ハア…あ!…や…やめて…そんな事しちゃあいけないよ……この…やめっ…変態…やめろー‼︎」
そして照明が入り、白衣を着た教師と助手の丸尾末広が生徒を見守っている。教師はベッドの前に布を張ったパイプ製のつい立てをたてる。
教師、マスクゴム手袋をつけ、生徒の手術を始める。丸尾にメスを渡されると激しく踊りながらつい立ての中へ飛び込み、切り刻む。つい立てに血しぶきが飛ぶ。教師、つい立てから飛び出し、また中へ飛び込む、つい立てに血潮。すると生徒の中からエイリアンが出てくる。
「これは性的妄想というエイリアンだ!切り取れ〜!」すると生徒自身がエイリアンに。教師が麻酔を切ると生徒、元に戻り痛みで気絶する。「気絶しているうちは夢も見ないだろう。」教師は仕上げに、マーキュロを生徒の腹にタラタラとたらす。
教師「不思議な赤だ。おっと、うっかり触ったら大変だ。指に付いたら、3日は落やしない。」教師と丸尾、幹患部が乾くようにフーフーと吹く。教師は言う「どうして患部が乾いていくと赤か緑からわからない金属の様な色になるか秘密を知りたいか?これを読んでみたまえ。」丸尾読む「マーキュロクローム。主に2%水溶液として使用。刺激性が少なく、細菌発育抑制作用あり。分子式…C20 炭素 H8水素 O6酸素 Na2ナトリウム Hg …!そんなはずありません…先生」

                                                    保健室 丸尾と教師

教師「ところがあるんだよ丸尾くん。驚いたろう、その通り、Hg 水銀だ。」そして教師はマーキュロの由来を語る。「この響きがたまらんじゃないか。マー・キュ・ロ。鼻音から、破裂音、そして舌音。子音の発音を全て備えている。完璧だよ。」
そして満足そうに顔を輝かせ、再び生徒の腹にマーキュロをたらし始める教師。「こんな金属の様に輝く内臓を持っていたら、死んでからも愛される。おっと、手につけたら大変だ。3日は落やしない。」

〜暗転〜

チャイムが鳴る。今日は身体検査らしく、生徒達カルテを持って一列に並んでいる。時折ヒソヒソと話している。
「おい、鳥羽(武井龍秀)のやつ、この頃変じゃないか?」「やっぱ、あいつ変だよな。」「何ていうかな、人が変わったというか、堅くなった。」鳥羽にサスが当たる。無表情で硬直したように突っ立っている。「なんか、金属的でギクシャクしてて変だろ。階段登るとカチカチ言うぜ。」「そりゃガビョウか何か踏んでるんだろう。」

そこへ教師と丸尾が入ってきて生徒の定期検診を始める。生徒の身長や舌を調べたり、体重チェックなどをしている。教師、ふと丸尾のペンダコに気付く。教師「最近君に関して悪い噂があってね、この保健室で漫画を描いているという…、まあいい。だが間違ってもエロ漫画ではないだろうね。」丸尾「エロ…エロ漫画なんて僕は描いた事ありません!!」丸尾、飛び出していく。教師「少し傷つけてしまったかな…」教師、カルテを見ている間、丸尾舞台隅に出てきて、白衣の前を開けると、少女椿のTシャツ、新人賞のリボン、ベルトの間に自分の単行本4冊を挟んで客席に見せておじぎして去る。

教師は生徒達ひとりひとりの心配事などを聞いている。1人は学校に行っている間、母親が自分の部屋に入って調べている事、1人は声変わりが来ない事、1人は裏山が火事だと信じ込んでいる。教師は言う。「血液をマーキュロと取り換えてやろうか。鳥羽を見たまえ。」生徒一斉に鳥羽を見る。教師「どうかね?体の調子は?また変な夢を見るのかね?」鳥羽「いえ、ほとんど見なくなりました。」

                                         武井龍秀(左)と生徒達

教師「諸君!この妄想狂の鳥羽にしてこうだ。彼の血液は20%がマーキュロと取り換えられている。彼の脳髄は、これだけ浄化され、極めて清潔な精神状態を保っている。夜毎のいまいましい妄想から解放される術はこれだけだ。私の血管には…100%マーキュロが流れている。」
生徒「先生!僕の血も変えて下さい!」「僕も!」
三上「僕だけ定期検診がまだなんですが。」残りの生徒、教室に戻っていく。
教師「君なんかが一番マーキュロの必要な人間だ。姉さんを探していると言う割には望遠鏡で覗いているだけだし、おまけにこの間は望遠鏡の中に私が見えたなどと面白い事を言っていたねえ。それは姉さんを探すのを私に手伝えという事か?私もあれから調べてみたんだよ。いろいろと調べてみたが、ここ2〜3年の間にこの街で長期滞在していた者は見つからなかったよ。」
三上「そうですか。でも姉を連れ出した男はこの街にいるという可能性はありますね。先生はこの学校は長いんですか?」
教師「いや、3年程だ。」鳥羽「じゃあ、ちょうど姉がいなくなった頃ですね。冗談ですせんせい。それから先生の血がマーキュロだなんてウソ、僕には通用しませんよ。」

〜暗転〜

夜。保健室の人体模型が裏返り、乞食少年が現れ、例のごとく大口を開けて笑う。アルコール液を飲み干し、ツマミにヨードチンキを浸して丸い脱脂綿を幾つも口に放り込む。そして諸肌を脱ぎ、エタノールを浸したガーゼで体を拭く。彼の入浴時間である。人体模型とクルクル回り、ベッドに寝かせキスをする。
その時、三上が入って来たので乞食少年慌てて隠れる。三上、懐中電灯を照らしながら、全ての引き出しを調べ、白衣のポケットを物凄い勢いで探る。

                                     乞食少年 チンカジョン(飴屋法水)
その時、乞食少年が出てきて「お前は何してたんだ?俺はいつもここで身を清めるのだ。それにお前、あと20分もするとお前の担任が宿直に来るぞ。お前にいいものをやろう。」と言って、コウモリの爪や猫の歯、銀蠅の羽根を出し売ろうとするが三上はいらないと言う。乞食「それじゃあ、こんなのはどうだ?」と言って乞食少年、足の指の間にに一枚一枚アダルト写真を挟んでいく。が三上は拒否。しかし1枚の写真に目を止め、乞食から1000円で買う。三上はアルコールランプの火にかざし、写真を食い入る様に見る。

〜暗転〜

教師が机の前に立ち、数本のメスを磨き、フロックコートの内側のビッシリはめ込まれている手術用具の中に差し込む。そこへ三上がドアを激しく開けて入ってくる。一番はじめの三上の登場と全く同じである。三上とパラソルのみが一瞬浮かび上がる。
教師「(校内放送の様に)下校時間はとっくに過ぎています。通用門が閉まります。生徒の皆さん、直ちに下校いたしましょう。」
三上「通用門の鍵は壊れてます。こんな時間に申し訳ありませんが、どうしてもお話があるんです。」教師「どうして君達は静かにしていられないんだ。薬棚もベッドもいつもと変わらず黙ってここにある。ああ、冷たくて気持ちがいい。」
三上「僕の姉もさぞかし冷たくて気持ちが良かったでしょうね。」
教師「君の姉さん?君の姉さんの事も、出来る限りの事はしたはずだ。私はねえ、君の姉さんの顔も知らないんだよ。」
三上「姉が居なくなって1ケ月後、姉のアルバムをめくってみると写真が一枚残らず剥がされている。姉のアドレス帳も破られていて、残された白紙の部分を4Bの鉛筆を当ててこすると文字が浮かび上がる。9名の住所、氏名。すでに8名は確認済み。残り1名、現在取り調べ中!先生、あなたです。」
教師「(ニヤニヤして)君、探偵映画の見過ぎだね。まあ、知っていたなら知っていたで、それなりに対応していたんだけどねえ…でも姉さんとは3年前から一度も会っていないよ。」

                                             教師キンブチ(嶋田久作)

三上「(教師に写真を見せて)まだシラを切るつもりですか? あなたが僕の姉と腕を組んで楽しげに笑っている写真じゃないですか、これは‼︎」三上と教師、長々と罵り合う。教師、ある事に気付く。「君、胸の第2ボタンが外れているよ。だらしがない。」三上急にオドオドする。」教師「ボタンと姉さんと、何か関係があるの?」
三上「あのボタンは姉さんが持って行ってしまったんですよ、それをどうしても返してもらわなければならないんです。(ボンヤリと遠くを見つめている。)」
教師「ボタンを? …君、もしかして君は。ひょっとして、姉さんを、殺したろ。」
三上、石の様に凍りつく。学生ボタンを、1つ、1つ、むしり取り右手に集め、じっと見る。右手を顔の高さまで上げ、ポロリとひとつ落とす。すると背後の薬棚の薬品の瓶が1つ落ちて割れる。またボタンを落とす、瓶が割れる、また落とす、瓶が割れる。最後のひとつを落とすと、突然薬品棚の全ての瓶が、棚が、一斉に崩れ落ちる。その向こうに朽ちかけた木馬が一頭静かに揺れている。姉が、ビニール菅、ゴム管、電線などで縛り付けられていて数え切れないガラスの破片が刺さっている。傷口からは夥しい量の血が流れている。遠くから教会の鐘の音。
三上「(放心した様に)月夜の晩に、ボタンが1つ波打際に落ちていた。それを拾って役立てようと、僕は思ったわけでもないが…。(中原中也)」三上、突然狂った様に教師につかみかかる。教師と三上、闘いながら三上の背で配電盤がショートする。激しい音楽。三上、落ちているガラスの破片を拾い上げ、教師フロックコートからメスを取りだす。揉み合ううちに教師のメス、三上の腹に刺さる。音楽止まり、粘液の様な雨が降り、三上のたうち回る。三上、立ち上がりかけると教師は再び三上を刺す。三上、教師に手当たり次第の物を投げつけ、止めてくれよー頼むよー痛いよーと呟く。教師の三上を恐れているかのようにメッタ突きにし、この蛆虫やろうなどとブツブツ言う。やがて三上苦しそうにワイシャツの前を引き裂くと、肋骨が覗いている三上。そのまま倒れ絶命する。教師は血をカーテンで吹き、「汚い血だ。」

学生6人が駆け込んで来る。生徒、三上を部屋の隅のポリバケツに捨てる。学生たちの服の間からビニール菅が見えマーキュロが中に流れている。

「1985年、2月2X日、行谷あたる、62%マーキュロイド!」
「同じく、中島晴臣、74%マーキュロイド!」
「同じく、矢車剣之介、67%マーキュロイド!」
「同じく、浅田伸郎、85%マーキュロイド!」
「同じく、武井龍秀、98%マーキュロイド!」
生徒座って教師の方に向く。「そしてどうすればいいんですか?」
教師「息を吸え………息を吐け。(生徒深呼吸) そして待て。」
生徒「いつまで。」
教師「体内におけるマーキュロの純度が高まり、完全な浄化がなされるまで。」 生徒「どこで。」 教師「ここで。」

音楽(第3の選択) 学生達、ゆっくりと呼吸を繰り返しながら、自分の心臓や、手首、こめかみに手を当て、体の変化を確かめる。教師、じっと前を見て動かない。その後方を巨大な月が、ゆっくりと沈んでいく。
ーENDー



                                                        嶋田久作氏から生まれる飴屋法水氏のエイリアン









ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。
Keiko Olds (ケイコ・オールズ) ツイッター @misopichopo

























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