ワルプルギス( あらすじ )
舞台には棺が4つ立って並び中には屍体が入っている。
フロックコートを着て、ステッキを持った紳士(嶋田久作)ナタデ・ココと、二人の中国人。 1人の中国人は理解不能な中国語もどきで喋りまくり、意味がわからないので下男がココに通訳をする。
ココは4体の屍体を確認し、若い20代の若造の屍体を選んで買う。
屍体にワルプルギスと名付け、ステッキで屍体を叩きながら「お前と私は!…このようにして出会い!
…このようにして!…始まるのだ!」とステッキを思いっきり振り下ろす。
舞台全面に少年達がビーカーを顔の高さまで持ち、中を見ている。 中にはハツカネズミが1匹づつ入っている。真っ暗な中、少年達の顔ばかりが浮かんで見える。
少年達は言う。「1986年…」「クラブワルプルギスの地下…」「室でこの実験が始まった。」
「死んだネズミがこうしてまた動き出した。」「壊れた機械も修理すればまた動く。」「そう!」
「テクニックがあれば…」「そしてそいつがまた息を吹き返す」
「何も知らず、クラブで踊るガキの足音が聞こえる」
突然大音響のデッド・オア・アライブの曲。
ノイツェン…アーツェン…ジプツェン…ゼヒツェン…フュンフツェン…ドライツェン…ツベルク…エルフ…
ツェーン…ノイン…アハト…ジーベン!…ゼクス!…フュンフ!フィーア!ドライ‼︎ ツバイ‼︎ アインス!!!
6人いっせいにしゃがむ。大きな鉄製の棺が横たわっている。棺には"WALPURGIS"の文字。
ココが杖を振り上げてポーズをとっている。 〜暗転〜
明りが入る。6人の姿は消えている。ココが棺に杖を振り下ろす。 棺の蓋がググッと持ち上がり開きワルプルギスが目を覚まし起き上がる。
「あんた、だれ?」とワルプルギス。
ココは言う「お前のパパだよ。お前は吸血鬼だ、昔を思い出すのはやめたまえ。お前の体は寄せ集めだ。
君の大脳も眼球も皆、君を裏切るだろうから」
ココはワルプルギスにリンゴをかじらせるが、体が受け付けないので直ぐに吐き出す。 「お前が飲んでうまいと感じる液体は血液だけだ。だって私がそういう風に作ったんだも〜ん」
そんな時、誰かが地下室に降りてきたのでワルプルギスとココは隠れる。 2人の少年がハシゴにへばり付いたまま、恐る恐るジッポに火を点けて中を覗いている。
名前はナル(石川成俊)とヨーカン(上野 仁)。ナルはこの近くでセムシ男とチュチュを身に付けた変な奴らを
突然その時、鉄の扉がガシャーン!と大きな音を立てて開き、ナルの話していたチュチュがセムシ男を 鞭で叩き大騒ぎしながら、一瞬のうちに通り過ぎてゆく。ヨーカンとナルは腰を抜かしたまま
ポカーンと呆気にとられていた。
その時、また誰かが来る気配に2人は隠れようとするが、ヨーカンはロウソクを取りに行こうとして 見つかってしまう。そしてワルプルギスの最初の餌食(ディナー)に……
ワルプルギスはお腹いっぱいで眠くなって棺に戻り、ココは去る。
そしてその後ヨーカンを心配し出てきたナルが、吸血鬼になっってしまったヨーカンの餌食になってしまう。
-暗転-
少年達の食事は、1日50cc の水。狂ったように水を欲する少年達。(撮影:わたくし)
明りが入ると吸血鬼少年が増えたらしく4人になり、「くれ〜水をくれ〜!」と必死に水を求めている。 リタ(チュチュ男 : 矢車剣之介)とルゴシ(セムシ男 : 飴屋法水)が4人の吸血鬼の教育役らしい。
彼等は少年達に世界の吸血鬼について教えていた。少年達は全く分からないどころか十字架やニンニクさえも
恐れず、十字架を首にかけニンニクをかじり、吸血 = 蚊・ダニ・ノミと答える。
ルゴシとリタは少年達があまりにバカになので呆れてしまう。
"ファッツ・ニュー・プシー・キャット"の音楽が流れる。
ある日、ワルプルギスはルゴシから鍵を奪って外に逃げると、帽子を被った2人の少年
(棚橋ナッツと越美晴)に出会う。
そして片方の少年を襲ったワルプルギスは突然飛び退き、喉を掻きむしり転げ回る。訳がわからない。
そこへ、探しに来たリタとココにワルプルが「あいつ……女だ!」
(撮影:わたくし)
少年と思っていた少女(ワーミー)はワルプルを指差し、高い少女の声で「兄さん……あたし、あたし… あの子の…ハートが欲しい。あの子の心臓が…欲しい‼︎‼︎」兄は催眠術をかけられたように
ワルプルに襲いかかろうとするが、ココがステッキで兄の顔をめった叩きにし、兄は失明する。
(この写真は演劇の休憩時間に行われる。トイレなどに
行ってしまった客は見逃してしまう。客の暇つぶし用と
して、飴屋法水氏の意地悪な幕間。)
(撮影:わたくし)
10分間の休憩。客はトイレに行ったりお喋りをしている。そこにワーミーと兄が幕の前に現れる。 兄は派手なセンスの悪いコーディネートの服を着て白いステッキを持っている。
「兄さん、今日は良いお天気なの。兄さんはメクラだから見えないだろうけど」兄「………」
「だからね、今日は兄さんにとってもオシャレさせてあげたわ。兄さんの好きなダークブルーの
ネクタイ(嘘)に白いシャツ(嘘)と黒いベルト(嘘)、ズボンもカッコいいわ。メクラでもカッコよくしないとね」
そしてワーミーは兄さんを残して去ってしまう。どこまでも兄さんをバカにした妹である。
-暗転-
(撮影:わたくし) ↑増殖初期の心臓(三上晴子作)
そして舞台中央にワルプルギスが金属のベッドに横たわり、体から出された血管だらけの心臓が中に
浮いている。4人の少年達はワルプルに新しい血を輸血するために、外へ出て人を襲っていたが、
どうやらあの中国人も吸血鬼になったらしい。
少年達はワルプルギスの側でゴム管を加えワルプルギスに飲ませ、新しい血と入れ替える試みをする。
ココは皆にワーミーと兄を探し出して連れて来るように命じる。
ワルプルがは苦しそうに寝言を言い絶叫し昏睡状態になる。
そこへワーミーがどこからか入ってきてワルプルを見つめている。
ワーミーはなぜか背中に柱時計を背負い、クイとカナヅチを持っている。
そしてクイをワルプルの胸に当て「約束どおり来たわ。今すぐ助けてあげるからね」
と言ってカナヅチでクイを叩くとワルプルが「痛え!」と目を覚ました。
ワーミー慌ててカナヅチとクイを後ろに隠す。「お前今何を隠した!」とワルプルギス。
「あ、これは、ただのカナヅチ」「もうかたっぽは?」「え、ううんと………クイ」
ワーミーはサササと後ろへ下り「心臓だけよ、君はいらないから」と言うと
「おい、俺と心臓を分けて考えるなよ」とワルプルギス。「代わりはちゃんと持って来たの、
ほらこの柱時計。ちゃんと鳴るんだから。子猫はね、時計を側に置くと心臓の音に聞こえるから
スヤスヤ眠るのよ」ワーミーは突然ワルプルの心臓をつかみ、心臓と話をしだす。
ワーミーが話し出すと心臓がドックンと返事をする。ワーミーの首からワルプルの心臓に
1本のケーブルが通りワーミーの血を欲しいと訴えていた。「やめろ!畜生、勝手に返事するな〜!」
-暗転-
(撮影:わたくし)
照明が入ると吸血少年達が雑談しながらワルプルギスをからかっている。 ワルプルはうなされながらワーミーの名を呼んでいる。
(撮影:わたくし)
ココはもう一つ新しい棺を持って来させる。棺に書いてあるのはゲシュタポ。
ステッキで蓋を強く叩くと中からゲシュタボ(大橋二郎)が現れる。
とても臭いゲシュタボはネズミの肉で作られていて眼球もひとつだけ、声帯も作れなかったので
「ガ〜〜」としか言えない。脳もネズミなので知能指数はゼロ。
しかし闘争本能、敏捷性に優れた歩く兵器だと言うココ。
そしてワーミーの兄を連れて来させると、献血にご協力して下さいとゲシュタボの棺に入れ蓋を閉じる。
中からは激しい悲鳴と物音、蓋がバンバンと持ち上がり、棺の下からは血がポタポタと流れ落ち、
少年達はフラスコに集め出す。残った地は少年達とゲシュタボがムシャぶりつく。
(音楽 マルセリーノの唄)
白い布のかかったテーブルの上の料理が並べられ、ココとワーミーが座っている。 少女は歌を歌っている。ワーミーはココに勧められ果物をひとつだけ取る。
ワーミーが赤が好きだと言ったので、喜んでワイングラスに赤ワインを注いだが、
ワーミーはそれがワインで無い事に気付いた。ココは言う「それはあなたのお兄様の血液です。
え?お兄様ですか?ほらあそこに30匹程ネズミが肉をついばんでいるでしょう?
あれがお兄様の最後のひとかけら。あんなに小さくなっちゃって、まあもともと大きい人じゃ
なかったけどねえ、はっはっは。ネズミは餓死寸前になると一斉に馬乗りになって、
一番下で窒息したやつが餌になり生き延びるんです。お兄様もあなたもネズミです」
そこへゲシュタポ達がワルプルギスを連れて入ってくる。 ココはワルプルギスが血を飲む事をとことん拒否したために元の屍に戻る事を提案する。
それにはワーミーの血を飲むか、ゲシュタポに食わせるか。
ワルプルはゲシュタポに食われるなら、せめて自分の心臓だけワーミーにくれてやってくれと言うが、 ココは「絶対にやだ」と答える。
ワルプルが「ワーミーッ‼︎ そんならオレはおめぇの血を吸うぞ!いいかっ⁈」ワーミーは何度もうなづく。そしてココが聞く「最後に言い残す事はあるか?」
「じゃあひとつだけ。この世界とやらを動かしてんのは、どこのどいつだ?あんたか?違う?じゃあ誰だ!
答えろ!なぜオレを作った?答えろ〜〜‼︎」答えないココにワルプルギスは笑う。
「じゃあワーミー、いくぞ‼︎」と言って苦しみ ながらワーミーを噛み続ける。
そして暗転。
照明が入るとベッドにワルプルギスが横たわり、胸から突き破った巨大な物が宙に浮いている。
皆、呆然とそれを見つめている。ワーミーは床に横たわっている。ワルプルギスが言う。
「ココの旦那がオレを呼んでいる。オレの足元にはさっきまで暖かかったワーミーが転がっている。
オレの上のバカみてえに膨れ上がった心臓にワーミーと名前をつけよう。
どうやらオレはこのまま生き続けるようだ。よう、ココの旦那、オレとあんたはこのようにして
もう一度出会い、このようにして、始まるんだ‼︎」
巨大な心臓から霧のような血が部屋中に吹き上がる。少年達は機械的な動きをしながら心臓を手で押さえる。 ワルプルギスはいつまでも、いつまでも笑い続ける。
-暗転- END
(撮影:わたくし) エンディングに出演者全員が舞台に勢揃いし挨拶。
ワーミー(コシミハル)の背後にあるのが、三上晴子の製作したアートや、ワルプルギスの巨大化した心臓。
鉄の棺や舞台全体に、三上晴子さんのアートがあふれていた。